アクアリウム挿話

いかつい顔をして、僕を出迎えてくれるオオカミウオ
鏡を使って壁面に光をあてて左右させると、
一緒に左右に首を振ってくれる皇帝ペンギン
水の抵抗が一切ないんじゃないかと疑うほど、しゅるると泳ぐイルカ2頭。
ひとまず食欲を内面に閉じこめようとするけどにじみ出てしまうピラニア。
いるんだかいないんだか分からない期間限定のクリオネ。
円筒形の水槽をいつまでも回り続ける、イワシにサンマ。
ひとまず何もしなければ、害がなさそうなサメ。
一度も見たことがないけれど、世界に一頭だけ水槽に住んでいるというジンベイザメ
人当たりは良いのだけれど、人殺ししそうなシャチ。

今まで行ったことがある水族館を思い出すという行為は結構楽しい。

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僕は水族館に行くのが好きで、
学生時代、休みになると一人でよく水族館に行った。

どの水族館にも人があまり通らない場所にベンチがあって
そこに座ってぼぉっとするのが好きだ。

水族館のイルカショーを小さな子に囲まれてみるのも好きだ。
ただし、「彼女連れまたは、子連れというコードを踏み外している僕」に
子供達の両親の目は冷たい。
(逆の立場なら僕もそういう目をするはずだ。)

水族館は昼下がりの図書館と同じ場所になるべきだと思う。
昼下がりの図書館は、子供から老人。役人から浮浪者までただ、
本の前でじっと息を潜ませている。
大体の人間は、午後の日だまりの中で本を胸に寝息を立てている。

書架の前で本を探す人々の目は、
水族館の大水槽で魚たちが泳ぎ回っている姿を見る人々の目と似ている。

水族館だって子供から老人。役人から浮浪者までただ、
水槽の前でじっと息を潜ませればいいのだ。
(水族館のパンフレットを片手に寝息を立てればいいのだ)

多分、オオカミウオだってそう思っているから、
あんなしかめっ面をしているのだ。

彼(オオカミウオ)が人間だったら、僕と彼はは非常に気があうんじゃないだろうか。